オモコロ杯で佳作をいただき啄木を失った

 

いまさらではあるが、第五回オモコロ杯にて佳作をいただいた。この啄木の記事だ。

 

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おめでたい。ブログをはじめてから5年、よもやこんなおめでたいことが起きようとは夢にも思わなかった。

 

しかしこうして振り返ってみるとあの記事を書くのはとても大変だった。

 

そもそもああいった記事を書くときは自分のほかに撮影を手伝ってくれる人がいてくれると非常に、非常にスムーズだ。どうしても三脚などでは上手に撮れないうえ時間がかかる、さらに言うと異様に目立つ。人前で目立つ行動をするのは本当に恥ずかしい。だからなんとしてでも友達を連れてくるべきだったのだが、わざわざ写真を撮るためだけに東京までついてきてくれる人もおらず、自分ひとりでなんとかするしかなかったのだ。

 

まず凌雲閣跡地のパチンコ屋。記事では結局使わなかったが、浅草寺に行く前に凌雲閣の跡地で写真を撮っていた。

 

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これがその写真なのだが、そもそもここは浅草といえど観光地でもなんでもないパチンコ屋なので写真を撮ってる人はひとりもいない。加えてバカにデカい啄木ダンボールを抱えるおれは異様に目立っていた。さっさと写真を撮ってもらって逃げようと思い、すぐ近くにいた警備員さんをつかまえて『あの、写真撮ってください』とお願いした。アレクサなら『アの、ヒャしん、とってくだサィ』と拾っただろうが、人間の脳はよくできているので警備員のおっちゃんはおれの意を解したようだった。そしてこう返した

 

『業務中なので』

 

断られた~!恥ずかし~!!
瞬間、昔おれが告白した女の子がフラッシュバックした。おれの告白を雑に断った小柄でかわいい小高さんと警備員のおっちゃんが重なった。学生時代のあまずっぱい思い出がこんな形で上書き保存されるとは。今後小高さんのことを思い出すときもれなく警備員のおっちゃんも思い出してしまうじゃないか。おれの思い出を汚染しないでほしい。

 

ふたりのあいだに気まずい沈黙が流れたそのすぐあと(小高さんに断られた時にも気まずい沈黙があった)、その場を早く離れたい一心で近くを通ったカップルを反射的につかまえて写真を撮ってもらった。このひとたちも結構つめたかったが、撮っていただいた以上文句はいえまい。

 

 

しかし!

浅草寺の前に来たときひらめいちゃったのよ。ピーンときたね。ははーん、見えちゃったわ、攻略法(こたえ)が。

 

雷門の前にはめちゃめちゃ観光客がいる。その観光客もおれと同じく誰かに写真を撮ってもらいたいのだ。そこでおれがそいつらに明るく声をかける。『写真、撮りましょうか?』と。もうすでに晩飯のカニの食べ放題のことしか頭にないツアー観光客はこう答える。『あへ、いいんでしゅか?』と。そんでおれがパシっと写真を撮ってあげて、スマホを返すときにこう言うのだ。『ぼくの写真も撮ってくれませんか?』と。

 

ギブアンドテイク。人間の原始的な本能(インスティンクト)が導いた栄光のロード。

 

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それで撮ってもらったのがこの2枚。実際、浅草寺スカイツリーの駅前ではこの戦法でうまくいった。まんまこの調子で余裕だった。自身の戒名を大脳皮質極度発達左右衛門にすると決めた。ジーコに替えておれを代表監督にしろとJFAに伝えてくれ。


しかし問題はスカイツリーの展望台に上ったあとだった。一度成功を経験したサルはその成功体験に異常に固執してしまうというが、展望台のおれはまさにそれだった。サクセスモンキーだった。

 

スカイツリーの展望台へは地上からエレベーターで上がることになる。下るときもエレベーターに乗るのだが、ここでまた長い列に並ばないといけない。つまり展望台の空間は狭い密室のようなもので逃げ場がない。この展望台のなか、啄木はメチャメチャに目立っていた。その場にいる全員が啄木とおれを見ていた。

 

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 この写真ではわからないが、おれの正面に30人ぐらいの人がいる。大体がカップルで歌人と来ている人はおれ以外にはいないようだった。

 

いままでの場所では写真を一枚撮ってすぐ退散。その一瞬だけ目立って恥ずかしい思いをしても、すぐにデビルバットゴーストを発動し逃げることができた。しかしこのスカイツリー展望台は違う。撮影をすばやく終わらせても地上に降りるまで30分ほど列に並ばないといけないのだ。

 

『なにあれ』『あの写真はなに?文豪?』『え、こわ』

 

噂は伝染する。みんな夜景を見ずにこちらを見ていた。せめて友達がいれば恥ずかしい気持ちもごまかせたと思うが、なにぶんひとりである。ひとりと啄木である。

 

高きより飛びおりるごとき心もて
この一生を
終るすべなきか

 

という啄木の歌があるが、啄木もここまでの高さは想定していなかったことだろう。啄木とおれは地上600メートルの世界で衆目を一手に集めていた。好奇の目線が全身に突き刺さる。まさかここまで恥ずかしい思いをすることになるとは予想だにしていなかった。もうぜったい一人でこんなことをしない。

 

その反省もあり、台湾では半ば無理やりにでも友達を連れていった。これでもう恥ずかしくないぞ!と思っていたら啄木を失ってしまった。

 

なぜ世界はこうもおれを苦しめるのか。